糖尿病網膜症

糖尿病網膜症イメージ

糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経障害とともに「糖尿病の三大合併症」のひとつとして知られています。糖尿病網膜症になる人も年間3000人を数えるとみられています。視覚障害になる原因としては緑内障に次ぐ2番目の数字で、非常に注意する必要があります。

初期においては、自覚症状はほとんどありませんが、やがて目がかすんだり視力が低下したりといった症状が出始めます。また蚊や糸くずのようなものが飛んで見える飛蚊症や、視野の一部が暗くなる、欠けるなどの症状が引き起こされ、目の中の出血や網膜剥離、緑内障などを併発し、失明に至る危険性もあります。

糖尿病と診断されたら、すぐに眼科を受診し、検査を受けることが大切です。検査としては、眼底検査、蛍光眼底造影、網膜断層検査(OCT)などによって網膜の状態を確認し、糖尿病網膜症の発症の有無、もし発症していた場合の進行度合いなどを調べ、それぞれの段階に応じた治療を行っていきます。

糖尿病網膜症は進行状況によって、下記のように分けられています。

単純網膜症(初期)

点状・斑状出血、毛細血管の一部がこぶのように張れる毛細血管瘤、血漿成分が滲みだして作る硬性白斑、血流の悪い部分の細胞が変化してできる軟性白斑などが見られはじめます。

この段階では食事や運動等の生活習慣の改善や血糖降下薬などの薬物治療による血糖値をコントロールする、糖尿病自体の治療が主体となります。月1回の目の検査をお勧めします。

増殖前網膜症(中期)

網膜の一部に虚血部分ができてしまっている段階で、軟性白斑が多くみられるようになります。血管閉塞、静脈が腫れあがる静脈異常、滲出した血液成分が網膜内に溜まって腫れる網膜浮腫などが起きます。まだ無症状、あるいは目がかすむ等の症状が出る場合もあります。

この段階では血糖値のコントロールに加え、新生血管の発生を防ぐため、病変部分にレーザーをあて凝固させる「レーザー光凝固術」や、網膜浮腫が強い場合は、新生血管の増殖や成長を促進する血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを抑える薬剤を、硝子体に直接注射する「抗VEGF薬硝子体注射」を実施する場合もあります。

増殖網膜症(進行期)

発生してしまった新生血管が破れ、網膜の表面や硝子体内に出血が広がり、視力を大きく低下させてしまう段階です。さらに新生血管が滲出した成分の刺激で増殖膜が形成され、網膜を牽引してしまうことにより網膜剥離が生じ(牽引性網膜剥離)、失明に至ることがあります。

この段階になると、糸くずのや蚊のようなものが視界に見えたり(飛蚊症)、視野が暗くなったり、狭くなったりという症状が現れます。大量な出血や牽引性網膜剥離が見られる場合は硝子体手術が必要になります。これは硝子体に光ファイバーや硝子体吸引器具などを挿入して硝子体内の出血部分や増殖膜を切除・吸引、人工の眼内かん流液などに置換して、剥がれた網膜を元の位置に戻すものです。

網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症イメージ

網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まり、血液の流れが滞ることで発症します。視力低下や視野欠損などの障害が起こりますが、閉塞する部位に応じて、「網膜中心静脈閉塞症」と、「網膜静脈分枝閉塞症」に分かれ、それぞれで症状が異なります。

網膜中心静脈閉塞症

眼球後方にある網膜静脈の根本にあたる網膜中心静脈が詰まるため、網膜全体に障害が及ぶ場合があります。閉塞が軽度の場合(非虚血性)、血液のうっ滞によって視力低下などが見られます。重症の場合は眼底一面に大量の出血が起こり、虚血状態になります(虚血性)。また黄斑にも出血や浮腫が起き、突然、視力が障害されてしまう場合があります。出血は引いていきますが、黄斑浮腫がひどく、毛細血管が消失している場合には血流が再開せず、視力が回復しないこともあります。

網膜静脈分枝閉塞症

網膜内で枝分かれした先の静脈で閉塞が起こるものです、閉塞した部分より先の血管から血液があふれ出し、出血や浮腫が引き起こされます。出血した部分は網膜で光を受け取れないため、その部分の視野が欠損し、視力障害や変視の症状が出ます。出血が引いた後、末端で範囲が狭ければ、まったく気づかない場合もあり、自然に治癒することもあります。一方、黄斑部に近い場合、視力が回復しづらくなることがあります。

網膜の静脈が詰まる原因としては、網膜動脈における動脈硬化が誘因となると考えられています。網膜静脈は網膜動脈と密接な関係にあり、動脈硬化の影響を受けて血管が狭くなる、血液が滞るなどの状態が引き起こされます。それにより血液が凝固してできた血栓、あるいは血管自体の炎症により、血管が閉塞すると考えられています。動脈硬化の要因となる高血圧、さらには高脂血症や糖尿病などの生活習慣病が網膜静脈閉塞症の危険因子であり、一般的には高齢者に多い病気とされています。